本記事はマイクロソフト社員によって公開されております。
こんにちは。Windows Commercial Support Directory Services サポートチームです。
2022 年 10 月にリリースされた更新プログラムでは、CVE-2022-38042 への対処として、コンピューターオブジェクトの再利用によるセキュリティリスクを低減するために、ドメイン参加時に追加のセキュリティチェックが実装されております。
このセキュリティ強化に伴い、ドメイン参加に失敗するようになったというお問い合わせを多くいただいておりますため、
今回は、この追加されたセキュリティチェックの動作についてご案内させていただきます。
ドメイン参加時の追加のセキュリティチェックの動作について
ドメイン参加時に、Active Directory データベース上に同一名のコンピューターオブジェクトが存在している場合 (※) 、後述するセキュリティチェックが行われ、条件を満たすことが出来なかった場合、以下のエラーメッセージが表示され、ドメイン参加に失敗いたします。
※コンピューターオブジェクトを再利用するケースだけでなく、事前にコンピューターオブジェクトを作成しドメイン参加を行うケースも該当します。
** エラーメッセージ
1 | ドメイン "Domain Name" に参加中に次のエラーが発生しました: |
※この時、ドメイン参加を試行したマシン上のSystem イベントログでは、イベントID:4101(ソース:NetJoin) が記録され、本イベントログから、既存のコンピューターオブジェクトの DN (distinguishedName 属性) が確認できます。
このセキュリティチェックの条件は、2023 年 3 月の更新プログラムでさらに変更が加わっているため、2022 年 10 月の更新プログラムにおける動作と、2023 年 3 月の更新プログラムにおける動作に分けてご案内いたします。
▼ 2022 年 10 月の更新プログラムにおけるセキュリティチェックの動作
ドメイン参加するマシンに2022 年 10 月の更新プログラムが適用されている場合、以下の条件の内、どれか1つでも満たしていれば、ドメイン参加が可能となります。(いずれの条件も満たさない場合には、ドメイン参加がブロックされます。)
条件 ①:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性 (※1) に格納されているユーザーと、ドメイン参加時に利用するユーザーが同一ユーザーであること
条件 ②:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性が存在しない場合、コンピューターオブジェクトの所有者 (※2) と、ドメイン参加時に利用するユーザーが同一ユーザーであること
条件 ③:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性が存在しない場合、コンピューターオブジェクトの所有者が、”Domain Admins “ であること
※1: ms-DS-CreatorSID属性 は、コンピューターオブジェクトの作成権限を持たない一般のドメインユーザーによるドメイン参加操作にて、初めて作成されるコンピューターオブジェクトである場合に格納される属性であり、ドメイン参加を行ったユーザーのSID が格納されます。そのため、事前にコンピューターオブジェクトを作成する運用の場合や、Account Operators 権限等のコンピューターオブジェクトの作成権限を持つ管理者アカウントでドメイン参加させる場合には、本属性には値が入りません。
※2: 所有者は、 対象のコンピューターオブジェクトのアクセス制御リスト (ACL) 上の所有者を意味します。つまり、”Active Directory ユーザーとコンピューター” 上で対象コンピューターオブジェクトのプロパティの”セキュリティの詳細設定” 画面で表示される所有者を指します。
▼ 2023 年 3 月の更新プログラムにおけるセキュリティ チェックの動作
2023 年 3 月の更新プログラムでは、条件 ③ の所有者の定義が拡張されると共に、新しいグループ ポリシーが追加され、信頼されたコンピューターオブジェクトの所有者を定義することが可能となりました。
そのため、2023 年 3 月の更新プログラムを、ドメイン参加するマシンとドメイン コントローラー両方に適用している場合には、以下の条件の内、どれか1つでも満たしていれば、ドメイン参加が可能となりました。
条件 ①:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性に格納されているユーザー とドメイン参加時に利用するユーザーが同一ユーザーであること
条件 ②:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性が存在しない場合、コンピューターオブジェクトの所有者と、ドメイン参加時に利用するユーザーが同一ユーザーであること
条件 ③:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性が存在しない場合、コンピューターオブジェクトの所有者が、”Domain Admins “、”Enterprise Admins”、”Builtin-Administrators” のいずれかであること
条件 ④:再利用するコンピューターオブジェクトの ms-DS-CreatorSID 属性が存在しない場合、コンピューターオブジェクトの所有者が、グループ ポリシー [ドメイン コントローラー: ドメイン参加中のコンピューター アカウントの再利用を許可する] で許可されたユーザー、もしくはグループであること
大きな変更点としては条件④となりますが、特定のユーザーもしくはグループを、グループ ポリシーにて信頼されたコンピューターアカウントの所有者として定義することでセキュリティ チェックの条件を満たすことが可能となりました。
本変更により、例えば、事前に特定の作業用アカウントでコンピューターオブジェクトを作成する運用の場合でも、対象アカウントをグループ ポリシーで許可することで、既存の運用に影響が生じることなくドメイン参加が行えるようになります。
▼ 新しく追加されたグループ ポリシー『ドメイン コントローラー: ドメイン参加中のコンピューター アカウントの再利用を許可する』について
本ポリシーは、2023 年 3 月の更新プログラムをドメイン コントローラーに適用することで追加されます。
- ポリシー詳細
[ コンピューターの構成] - [ポリシー] - [Windows の設定] - [セキュリティの設定] - [ローカル ポリシー] - [セキュリティ オプション]
ポリシー名:『ドメイン コントローラー: ドメイン参加中のコンピューター アカウントの再利用を許可する』
“このポリシーの設定を定義する” にチェックを入れ、”セキュリティ編集” ボタンをクリックすると、セキュリティの設定画面が表示されます。
本画面にてユーザーやグループを追加し、”信頼されたコンピューターアカウント 所有者” の許可にチェックを入れることで、追加されたユーザーやグループが所有者であるコンピューターオブジェクトは許可対象となります。
本ポリシーの適用対象はドメイン コントローラーとなりますため、ドメイン コントローラーが所属するOU (Domain Controllers OU) にリンクされたGPO にて設定します。
なお、2023 年 3 月の更新プログラムが適用されたドメイン コントローラーにて、当該ポリシーの設定を行った場合でも、ドメイン参加を行うマシンに2023 年 3 月の更新プログラムが適用されていない場合は、有効な設定とならないためご留意ください。
本セキュリティ チェックによりドメイン参加がブロックされる場合の対処について
事前にコンピューターオブジェクトを作成し、作成者と別のユーザーでドメイン参加を行う運用の場合、
ドメイン参加マシンとドメイン コントローラーに2023 年 3 月の更新プログラムを適用頂き、新しく追加されたグループ ポリシーを利用して、コンピューターオブジェクトの作成者 (所有者) を許可することをご検討ください。
また、上記のような運用が無く、意図せずコンピューターオブジェクトの再利用となることでドメイン参加がブロックされた場合には、既存のコンピューターオブジェクトを削除した上でドメイン参加を実施ください。
補足:NetJoinLegacyAccountReuse レジストリについて
今回のセキュリティチェックの一時的な緩和策として公開しておりました NetJoinLegacyAccountReuse レジストリにつきましては、2024 年 8 月 の更新プログラムにて無効化されました。
参考情報
・KB5020276 - Netjoin: ドメイン参加のセキュリティ強化の変更
・CVE-2022-38042: Active Directory Domain Services Elevation of Privilege Vulnerability
更新履歴
2023/3/23 : 本ブログの公開
2023/8/22 : NetJoinLegacyAccountReuse レジストリの削除スケジュールの延期に伴い、記事修正
2024/8/8 : NetJoinLegacyAccountReuse レジストリの削除スケジュールの延期に伴い、記事修正
2024/9/20 : NetJoinLegacyAccountReuse レジストリの削除に伴い、記事修正